名古屋高等裁判所 昭和33年(ネ)228号 判決 1959年6月13日
控訴人 原告 中部勧業株式会社
訴訟代理人 加藤高允
被控訴人 被告 日本軽量建材株式会社 外二名
主文
原判決を取消す。
控訴人に対し、被控訴人日本軽量建材株式会社及び同坂益雄は金十七万九千三百九十一円及び内金十七万八千三百六十六円に対する昭和三十二年十二月一日以降完済に至るまで年三割六分の割合による金員を、被控訴人神谷徳松は、金十七万八千六百六十二円及び内金十七万八千三百六十六円に対する前同日以降完済に至るまで百円につき一日金三銭の割合による金員をそれぞれ連帯して支払え。
控訴人の被控訴人等に対するその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、第一、二審共被控訴人等の連帯負担とする。
この判決は、控訴人において被控訴人等に対し各金三万円の担保を供するときは、第二項につき仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人日本軽量建材株式会社は、控訴人に対し、金二十二万六千五百九十六円及びこれに対する昭和三十二年十二月一日以降完済に至るまで年三割六分の割合による金員を支払え。被控訴人坂益雄及び同神谷徳松は、連帯して控訴人に対し、金二十万円及びこれに対する前同日以降完済に至るまで右割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人等の負担とする」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人等は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。
控訴代理人は、請求原因として次のように述べた。
(一) 控訴人は、金融業を営むものであるが、被控訴会社は、昭和三十二年七月三十一日控訴人との手形取引の特約により、控訴人において取得した被控訴会社の振出、引受、裏書もしくは保証にかかる手形又は小切手が不渡となつたときは、控訴人に対し、手形金又は小切手金の外、これに対する支払期日の翌日以降完済に至るまで、金百円につき一日(以下日歩という)金二十七銭の割合による損害金を附加して支払う旨約定し、被控訴人坂益雄及び同神谷徳松は、前同日控訴人に対し、被控訴会社の負担すべき右債務につき、額面金二十万円及びこれに対する前記割合による損害金を限度として、これが連帯保証をなした。
(二) そして、被控訴会社は、同年九月十九日附で控訴人宛に、額面金二十四万四千円、支払期日同年十一月三十日、支払地及び振出地共に名古屋市、支払場所控訴人方なる約束手形一通を振出し、控訴人は、右手形の所持人となつた。しかるに、被控訴会社は、右支払期日に支払場所たる控訴人方に出向しなかつたため、控訴人は、右手形金の支払を受けることができなかつた。
(三) なお、本件約束手形振出の事情は、次のとおりである。即ち、控訴人は、同年七月三十一日被控訴会社との間に手形取引につき前記特約をなし、同日被控訴会社より額面金二十万円、支払期日同年八月二十九日なる約束手形の振出を受け、右手形額面金額より、これに対する同年七月三十一日から支払期日の同年八月二十九日まで三十日間の日歩二十七銭の割合による利息金一万六千二百円及び印紙代金三十二円を天引して、残額の金十八万三千七百六十八円を被控訴会社に交付した。しかるに、被控訴会社は支払期日に右手形金の支払をなさず、わずかに損害金として、同年九月九日に金三千六百二十四円、同月二十八日に金一万円を支払つたのみであつた。そこで、控訴人は、同年十一月二十七日被控訴会社をして、右手形金二十万円に、これに対する同年八月三十日から同年十一月三十日まで日歩三十銭の割合による損害金より、右被控訴会社より支払のあつた損害金を差引いた金四万四千円を加算して、額面金二十四万四千円の本件約束手形を同年九月十九日附で振出させ、これを控訴人に差入れさせたのである。
(四) しかし、被控訴会社との損害金の約定は、日歩二十七銭の割合であつたのであるから、本件約束手形の額面金額は、前記手形金二十万円に対する日歩二十七銭の割合による右期間の損害金五万二百二十円より、前記被控訴会社の支払金員(合計金一万三千六百二十四円)を差引いた金三万六千五百九十六円を加算して、金二十三万六千五百九十六円とすべきところであつた。そして、控訴人は、その後同年十二月十三日被控訴会社より右手形金中金一万円の弁済を受けたので、これを右金員より差引いた金二十二万六千五百九十六円が正当な請求金員というべきである。
(五) よつて、控訴人は、被控訴会社に対しては、右約束手形金債務金二十二万六千五百九十六円及びこれに対する支払期日の翌日たる同年十二月一日以降完済に至るまで、利息制限法所定の制限に従つて引直した年三割六分の割合による損害金の、被控訴人坂益雄及び同神谷徳松に対しては、連帯して右手形取引保証債務金二十万円及びこれに対する前同日以降完済に至るまで、右割合による損害金の各支払を求めるため、本訴請求に及ぶものである。
(六) 仮に、右手形金請求が失当であるとすれば、予備的請求原因として、次のように主張する。即ち、控訴人は、昭和三十二年七月三十一日被控訴会社に対し、金二十万円を弁済期日同年八月二十九日、利息日歩二十七銭の約定にて貸与し、被控訴人坂益雄及び同神谷徳松は、前同日控訴人に対し、被控訴会社の右債務につき、これが連帯保証をなした。しかるに、被控訴会社は、前述のように同年九月九日に金三千六百二十四円、同月二十八日に金一万円、同年十二月十三日に金一万円、合計金二万三千六百二十四円を損害金として支払つたのみで、その余の損害金並びに元金の弁済をなさない。よつて、控訴人は、被控訴人等に対し貸金債務又はその保証債務として、前記請求金員の支払を求めるものである。
被控訴人等は、答弁として次のように述べた。
(一) 手形金請求につき、
被控訴会社代表者坂益雄及び被控訴人坂益雄において-控訴人主張(一)の事実は、これを認めるが、(二)の事実は、これを否認する。
被控訴人神谷徳松において-控訴人主張(一)の事実中、損害金の約定が日歩二十七銭であつたとする点を除き、その余の事実は、これを認めるが、(二)の事実は不知、右損害金は、銀行利子並みという約定であつた。
被控訴人等において-仮に、被控訴会社が控訴人主張のような約束手形を振出したとしても、抗弁として次のように主張する。即ち、被控訴会社は、昭和三十二年七月三十一日控訴人より、金二十万円を弁済期日同年八月二十九日、利息日歩二十七銭の約定にて借受け、その支払のため本件約束手形を振出したものである。そして、被控訴会社は、右金員借入に際して、控訴人により前払利息及び印紙代を差引かれたため、現実には金十八万三千七百六十八円を受領したに過ぎず、しかも、右借入金に対する損害金として、同年九月七日から同月十二日までの間に金三千六百二十四円、同月二十八日に金一万円、更に同年十二月十三日に金一万円を既に支払つているのであるから、控訴人請求のような金員の支払義務はない。
(二) 予備的の貸金請求につき、
被控訴人等において-控訴人主張(六)の事実中、利息の約定が日歩二十七銭であつたとする点は、これを否認するが、その余の事実は、これを認める。右利息は、日歩三銭の約定であつた。
証拠として、
控訴代理人は、甲第一号証乃至第四号証、第五号証及び第六号証の各一、二並びに第七号証乃至第九号証を提出し、当審証人塚本星光の証言並びに原審及び当審における控訴会社代表者伴野虎之助の各尋問の結果を援用し、乙号証につき、第一号証及び第二号証の各成立を認めた。
被控訴会社代表者及び被控訴人坂益雄は、乙第一号証及び第二号証を提出し、甲号証につき、第一号証、第三号証中登記官署作成部分、第四号証及び第九号証の各成立は、これを認めるが、第二号証及び第三号証中登記官署作成部分を除きその余の部分の各成立は、これを否認し(但し、第二号証の被控訴会社代表取締役坂益雄の記名及びその名下の印影が被控訴会社の印章により、第三号証の被控訴人坂益雄名下の印影が同被控訴人の印顆により、それぞれ押捺されたものであることは認める)、第五号証乃至第八号証の各成立は、不知と述べ、被控訴人神谷徳松は、乙第二号証を提出し、甲号証につき、第一号証及び第四号証の各成立は、これを認めるが、第二号証、第三号証及び第九号証の各成立は、不知と述べた(但し、第二号証の被控訴会社代表取締役坂益雄の記名及びその名下の印影が被控訴会社の印章により押捺されたものであることは認める)。
理由
控訴人が金融業を営むものであつて、被控訴会社が控訴人との間に、昭和三十二年七月三十一日控訴人主張のような手形取引の特約をしたこと、被控訴人坂益雄及び同神谷徳松が右同日控訴人対し、控訴人主張のように被控訴会社の負担すべき債務につき、連帯保証をなしたことは、控訴人と被控訴会社及び被控訴人坂益雄との間に争がなく、又損害金の約定が日歩二十七銭であつたとする点を除き、控訴人と被控訴人神谷徳松との間に争のないところである。
そして、成立に争のない甲第一号証、第四号証、乙第一号証、第二号証並びに原審及び当審における控訴会社代表者伴野虎之助の各供述によれば、控訴人神谷徳松に対する関係においても、控訴人と被控訴会社との間において右手形取引の特約により約定した損害金は、日歩二十七銭の割合であつたことを認めることができる。しかしながら、右甲第一号証及び控訴会社代表者の供述によると、被控訴人神谷徳松が控訴人に対し、右手形取引の特約により被控訴会社の負担すべき債務につき保証すべく、甲第一号証の手形割引特約証書に署名捺印したとき、同証書には、損害金は日歩三銭の割合による旨記載されていたにもかかわらず、被控訴人等の代理人たる訴外毛利三四郎において右証書を控訴人に差入れる際、同人が被控訴人神谷徳松の承諾をえることなくして勝手に、右損害金の記載を日歩二十七銭と訂正したものであることが認められ、事後において右のごとく訂正したことにつき同被控訴人の承認をえたことを確認するに足る証拠もない。尤も、甲第一号証の末尾被控訴人等の署名捺印の上欄外に、被控訴人等のいわゆる捨判が押捺されてはいるけれども、それが右損害金の記載個所と場所的に余り近接していないから、損害金の訂正と関連性があるとは認められず、従つて、右捨判のあることをもつて、被控訴人神谷徳松が右毛利三四郎に対し予め損害金の記載を訂正する権限を附与したものと認めるには困難であり、又右証書の記載の訂正につき一般的な権限を附与したものとすることもできない。そうとすれば、控訴人と被控訴人神谷徳松との間に成立した手形取引保証契約において約定した損害金は、日歩三銭の割合であつたとするのが相当であり、同被控訴人は、損害金については右限度においてのみ、前記保証債務の責任を負うにとどまるものといわねばならない。
次に、振出人欄の被控訴会社代表取締役坂益雄の記名(ゴム印)及びその名下の印影が被控訴会社の印により押捺されたものであることにつき争のないところより、民事訴訟法第三百二十六条により、真正に成立したものと推定すべき甲第二号証、並びに前掲控訴会社代表者の供述によれば、被控訴会社が同年九月十九日附で控訴人に宛ててその主張のような約束手形を振出したこと、支払期日に支払場所へ被控訴会社の出向なきため、控訴人が右手形金の支払を受けえなかつたことを認めることができ、他にこの認定を動かすべき証拠はない。
そこで、進んで被控訴人等主張の抗弁について判断する。
控訴人が、同年七月三十一日被控訴会社に対し、利息及び印紙代を差引いて金十八万三千七百六十八円を交付したこと、被控訴会社が控訴人に対し、同年九月に金三千六百二十四円、同月二十八日に金一万円を損害金として支払い、更に同年十二月十三日金一万円を弁済したことは、当事者間に争がない。
そして、成立に争のない甲第九号証、前掲甲第二号証、第四号証、乙第一号証、第二号証並びに控訴会社代表者の供述によると、次のような事実を認めることができる。即ち、控訴人は、同年七月三十一日被控訴会社との間に手形取引につき前述の特約をなし、右同日被控訴会社振出の控訴人宛額面金二十万円、支払期日同年八月二十九日、支払地及び振出地に名古屋市、支払場所控訴人方なる約束手形(甲第九号証)により、金二十万円を貸与した。しかし、現実には、右貸付金額より、貸付の同年七月三十一日から支払期日の同年八月二十九日まで三十日間の日歩二十七銭の割合による利息金一万六千二百円及び印紙代金三十二円を天引して、その残額の金十八万三千七百六十八円を交付した。しかるに、被控訴会社は支払期日に右手形金の支払をなさず、わずかに損害金として、同年九月九日に金三千六百二十四円、同月二十八日に金一万円を支払つたのみであつた(被控訴人等は、同月七日から同月十二日までの間に右金三千六百二十四円を支払つたと主張するけれども、同月九日より以前に右金員を支払つたことを認めるべき証拠はない)。それで、控訴人は、同年十一月二十七日被控訴会社をして、遡つて同年九月十九日附で控訴人宛に、右手形金二十万円に、これに対する同年八月三十日から同年十一月三十日まで日歩三十銭の割合によつて算出した金額より、右支払のあつた損害金を控除した金額(百円未満切捨)として金四万四千円を加算して、額面金二十四万四千円とする本件約束手形を振出させ、これを控訴人に差入れさせた。その後、被控訴会社は、同月十二月十三日に損害金として更に金一万円を控訴人に支払つた。以上の事実を認めることができ、他に叙上の認定を動かすべき証拠はない。そうとすれば、本件約束手形は、やはり被控訴会社の右認定消費貸借債務の支払を原因関係として振出されたものというべきである。
ところで、右に認定した控訴人と被控訴会社間の利息及び損害金日歩二十七銭(年換算九割八分余)の約定は、利息制限法所定の制限(利息契約につき年一割八分、損害金契約につき年三割六分)を超えるものであること明らかであるから、いずれもその超過部分につき無効としなければならない(同法第一条、第四条)。のみならず、控訴人の利息天引額金一万六千二百円は、これを差引いた被控訴会社の受領額金十八万三千八百円を元本として、これに対する同年七月三十一日から同年八月二十九日まで三十日間の右制限利率(年一割八分)により計算した金額二千七百十九円(円未満切捨、以下同じ)を超えること計数上明らかであるから、その超過部分の金一万三千四百八十一円は、元金二十万円の支払に充てられたものとみなすべく(同法第二条)、結局、控訴人と被控訴会社との間に成立した前記消費貸借の元金は、金十八万六千五百十九円となつたものといわねばならない。そして、前段認定の被控訴会社が任意に右制限利率を超えて支払つた損害金は、被控訴会社においてその返還を請求することは許されないが(同法第四条)、右超過部分は、当然元金債務の支払に充当されたものと解するのが相当である。けだし、利息制限法の制限を超えた損害金の約定は、超過部分につき、旧利息制限法のごとく単に裁判上無効というにとどまらず、法律上無効とされるところであつて、その超過部分は、損害金に支払われたものということができないからである。そうとすれば、同年九月九日支払の金三千六百二十四円の内金二千十三円は、前記元金十八万六千五百十九円に対する弁済期日の翌日である同年八月三十日から同年九月九日まで、十一日間の年三割六分の割合による損害金(一日につき金百八十三円)に、残額金一千六百十一円は、右元金の支払にそれぞれ充当せられて、その残元金は、金十八万四千九百八円となり、同月二十八日支払の金一万円の内金三千四百五十八円は、右残元金に対する同月十日から同月二十八日まで、十九日間の右割合による損害金(一日につき金百八十二円)に、残額金六千五百四十二円は、右残元金の支払にそれぞれ充当せられて、その残元金は、金十七万八千三百六十六円となり、同年十一月二十七日本件約束手形振出の当時、被控訴会社は、控訴人に対し右金員及びこれに対する同年九月二十九日以降の損害金支払の義務を負うていたに過ぎなかつたというべきである。そして、被控訴会社が本件手形振出後同年十二月十三日に支払つた金一万円の内金九千九百七十五円は、右残元金に対する同年九月二十九日から同年十一月二十四日まで、五十七日間の右割合による損害金(一日につき金百七十五円)に充当せられ、残額金二十五円は、同月二十五日以降の損害金に充当せられるべきものとしなければならない。してみると、被控訴会社は、本件約束手形の支払期日である同年十一月三十日当時、控訴人に対し右残元金十七万八千三百六十六円とこれに対する同月二十五日から同月三十日まで、六日間の右割合による損害金一千五十円より右の金二十五円を差引いた残額金一千二十五円の合計金十七万九千三百九十一円を支払うべきであつたものである。
右のような訳であるから、被控訴会社は、控訴人に対し本件約束手形債務中金十七万九千三百九十一円及び内金十七万八千三百六十六円に対する支払期日の翌日である同年十二月一日以降完済に至るまで年三割六分の割合による損害金の、被控訴人坂益雄は、前記手形取引保証債務として、右被控訴会社と同一の金員の、被控訴人神谷徳松は、右手形取引保証債務として、金十七万八千三百六十六円とこれに対する同年十一月二十五日から同月三十日まで、六日間の日歩三銭の割合による損害金三百二十一円より、前記の金二十五円を差引いた残額金二百九十六円の合計金十七万八千六百六十二円及び内金十七万八千三百六十六円に対する同年十二月一日以降完済に至るまで右割合による損害金の各支払義務があるものといわねばならない。従つて、控訴人の被控訴人等に対する本訴請求は、右範囲において正当としてこれを認容すべきであり、その余は失当としてこれを棄却すべきものと考える。
よつて、右と所見を異にし、控訴人の請求を全部棄却した原判決は、不当であるから、これを取消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第九十二条、第九十三条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条をそれぞれ適用して、主文のように判決する。
(裁判長裁判官 浜田従六 裁判官 山口正夫 裁判官 吉田誠吾)